政府が国民年金の保険料納付期間を現行制度における20~59歳という「40年間」から、20~64歳の「45年間」とする検討に入ったことが報じられ、注目を集めている。共同通信が10月15日に〈国民年金、納付45年へ延長検討 受給水準の低下食い止め〉と報じたのだ。これが現実のものとなれば、60代に大きな保険料負担増としてのしかかることになる。
国民年金の納付期間を45年に延ばす制度変更は、厚生労働省が何度も俎上に載せてきたものだ。前回2019年の公的年金制度の財政検証においても、オプション試算として納付期間が45年に延びた場合の変化が検討されている。前述の共同通信記事では〈社会保障審議会(厚生労働相の諮問機関)が月内に議論に着手。政府は2024年に結論を出し、25年の通常国会に改正法案提出を目指す〉とあり、5年に一度となる財政検証が次回は2024年となることからも、そのタイミングでの制度変更が検討されているということだろう。
自営業者、フリーランスなどが加入する国民年金の加入期間が延長されれば、多くの人にとって保険料負担が増えることになる。ベテラン社会保険労務士(社労士)が言う。
「国民年金の保険料は毎月約1万6600円。年間約20万円ですから、これまで加入しなくてよかった60~64歳の期間に保険料を支払わなければならない制度に変われば、単純計算で約100万円の負担増です。厚労省の財政検証でのオプション試算の説明資料を見る限り、40年加入が45年加入になれば、そのぶん受給額も増えるという話のようですが、それにしても100万円の保険料負担増分を取り戻すには10年以上かかることになる。なにより、収入が減ってくるタイミングに該当することの多い60代前半での負担増は家計への悪影響が大きいのではないか」
60代前半でも国民年金の保険料を支払わなければならない場合、影響があるのは自営業者だけではない。日本企業では60歳定年、65歳まで再雇用・雇用延長という制度の会社が多いが、60歳定年時に再雇用を選ばずにリタイアする人も少なくない。そうした元会社員はこれまで、年金保険料を支払う必要はなかった(基礎年金の加入期間が40年未満であれば、60~64歳の任意加入は可能)。それが、「定年退職した後にもう5年間、国民年金の保険料を払え」という話になってくるのだ。
「2019年の財政検証の時から出ていたオプションではあるが、このタイミングで具体的な話が出てくるのは、昨年の衆院選と今年の参院選を終えて2025年夏の参院選まで大きな国政選挙がないという“黄金の3年間”を政権が手に入れたこととも無縁ではないでしょう。選挙の前に負担増の話はしたくないということで、選挙後になってから2024年財政検証に向けた具体案が表面化したのではないか。
前回の財政検証のオプション試算は、現行では70歳までとなっている厚生年金の加入年齢上限を75歳まで延ばす案も入っている。今後、そうしたさらなる負担増の制度変更が具体化しないか、注視したいところです」(同前)
岸田政権はこれまでにも、国民年金の減額を抑えるために厚生年金で穴埋めする案を進めようとするなど、「年金改悪」の動きが次々と表面化している。手に入れたはずの“黄金の3年間”は旧/統/一/教/会問題などによる支持率急落で風前の灯火だが、こうした年金問題が国民の怒りを買えば、政権にとっては致命傷となるのではないか。(了)