言葉は時代と共に変化していくものです。誤用とされてきた言い回しが、いつの間にか世間の共通語になっていたということも珍しくありません。
その一例として「~たり」の用法が挙げられます。これがどのように誤って使われ、そして、正しい使い方はどうであるかを説明していきましょう。
「~たり」の正しい用法を知っていますか?
「~たり」という言い回しは、日常でも頻繁に使用されています。問題はそれが正しく使えているかどうかです。
「先週の日曜日は本を読んだり、散歩をするなどして過ごしました」
上の文を読んで、何か変だと感じましたか?もし、どこがおかしいのかさっぱり分からないというのであれば、「~たり」用法を学び直す必要があります。
実は、この「~たり」というのは並列助詞、あるいは並立助詞と言って、「~たり、~たり」と繰り返すのが通常の使い方なのです。「飛んだり跳ねたり」や「寝たり起きたり」、あるいは「踏んだり蹴ったり」などといった言い回しは耳にしたことがありますよね?この「~たり~たりする」という表現には、同程度のことが繰り返し起こっていることを示しています。
したがって、先の文の正解はこうです。
「先週の日曜日は本を読んだり、散歩をしたりして過ごしました」
また、「たり」を使用しないのであれば、以下のように書き直すこともできます。
「先週の日曜日は、読書や散歩などをして過ごしました」
その他にも、「煮るなり焼くなり好きにしてくれ」の「~なり」や「嬉しいやら哀しいやら」の「~やら」も同じ使われ方をする並列助詞です。
「~たり」のもうひとつの用法
誤用の代表例として、どうして「~たり」という表現を取り上げたというと、間違って使っているケースが非常に多いからです。正しい日本語を使っていると誰もが思っているニュース番組ですら、後ろの「~たり」が抜け落ちていることが頻繁にあります。実際、用語集などでも「~たり~たり」は誤用率の高い用法だと指摘があるほどです。
しかし、なぜ、誤用がここまで広がっていったのでしょうか?但是,为什么误用的情况会如此广泛呢?
ひとつには、「~たり」は単独でも使用できる場合があるため、その用法と混同している可能性があります。
「先週の日曜日は本を読んだりして過ごしました」
この文には「~たり」が1度しか使われていませんよね?しかし、これは誤用ではありません。「本を読んだり」の後ろにそれと同類のことが他にもあることを暗示する副助詞的用法として、使用が認められているのです。「~たり」を複数回使用するのは、あくまでも具体例が複数ある時に限られます。これを混同して、「~たり」は繰り返さなくても別に良いのだと思いこんでいる人もかなりいるのではないでしょうか。
「~たり」の用法を間違って使用している原因としては、もうひとつの可能性があります。
「日曜日はいつも本を読んだり、近くの山に登ってそこから見える風景を楽しみながら散歩するのが日課となっています」
比較的短い文では違和感を覚える人でも、このような文章の場合には「~たり」がひとつしかないことを見落としてしまうことが多々あります。なぜなら、「本を読んだり」の後に続く「近くの山に登ってそこから見える風景を楽しみながら」の部分が長いために「~たり」の存在を忘れてしまうからです。
「日曜日は本を読んだり、近くの山に登ってそこから見える風景を楽しみながら散歩したりするのが日課となっています」
こう書くと、逆に、後半の「散歩したり」の「~たり」の存在に唐突感すら覚えますが、もちろん、こちらが正しい使い方です。しかし、実際には、長文になれば、なるほど間違った使い方が増えていく傾向があります。あまりにも間違いが多いので、「~たり」がひとつの方が正しい使い方なのかと錯覚してしまうほどです。
誤用に対するライターの心構え
それでは、ライターの立場としては、この「~たり」の用法についていかに対処するべきでしょうか?誤用が一般的になっているのであれば、特に気にする必要がない、誤って使ってもさほど問題がないと思いますか?確かに、この誤用は世間的に広がりを見せています。
もしかすると、あと数十年もたてば、正式な用法として認められるようになるかもしれません。
しかし、実際にそうなるまでは、ライターは正しい用法を使い続けるべきなのです。
世間で浸透しているからといって、誤用に対して無頓着になると文章の意味に揺らぎが生じてしまいます。その言葉に対し、ライターと同じ認識の読者には分かってもらえたとしても、そうでない読者に対しては意味が通じにくくなってしまうでしょう。ライターの重要な役目のひとつに、必要な情報をできるだけ分かりやすく、できるだけ正確に、できるだけ多くの読者に伝えるということが挙げられます。そのためには、正しい日本語にこだわる必要があるのです。
ちなみに、ワードで記事を書く場合、「~たり」の誤用を防ぐことは、さほど難しいことではありません。間違った使い方をすると文章校正機能が働き、緑の波線を表示してそれを教えてくれるからです。したがって、この用法を正しく使えているか自信のない方は、提出前にワードで文章を表示し、チェックをしてみることをおすすめします。