円相場が下がり、観光客の入国も開放され、中国の「買い占め」はまだ起こるのだろうか。

食品、家電、ガソリン、電気代…など値上げが消費者の懐を直撃する日本。だが、急激な円安の進行と相まって、ドルを持った観光客からすれば、レストランから衣料品店、ホテルまで「なんでも激安」の国になっている。おかげさまで訪日客数も回復基調。しかし、本格的なインバウンド復活には、中国人観光客の存在が不可欠だ。「ゼロ・コロナ」政策にこだわり「鎖国」化が進む中国から、観光客が戻る日は来るのか? 米国の投資運用会社で働いた経験があり、『マネーの代理人たち』の著書もある小出・フィッシャー・美奈氏による見通しは。

ドル観光客には「激安」の日本

怒涛の円安が止まらない。9月22日の外国為替市場では、24年ぶりに一時1ドル145円台をつけ、政府・日銀の市場介入が実施された。

輸入品の価格が上がって更なるインフレ進行が懸念されるが、先の記事(関連記事:怒涛の「値上げラッシュ」のウラで「日本のインフレ」は本物なのか? この国の景気の行方)の通り、消費者が感じる痛みとは裏腹に、実は円安が進行したほど価格是正は進行しておらず、国際的に見れば日本は「インフレ」ではなくて「デフレ」が続いている。消費者の需要や購買力が弱くて、十分に値上げ出来ないサービスや物品が多いのだ。

「円安ほど価格是正が進んでいない」ということは、ドルを持つ外国人から見たら今の日本はなんでも劇的に安い! ということを意味する。

例えば通貨の購買力を国際比較する「ビッグマック指数」に使われるビッグマックバーガーは、米国の大都市圏では6ドル程度する。1ドル140円では840円にもなるが、これに対して日本のビッグマックは3月の価格改定後でも390円。米国の消費者から見れば2.8ドルと、半額で大きなビッグマックにかぶりつくことが出来るのだ。

また米国ではラーメンが大人気で、日本ではふつうに美味しいとみなされるチェーン店にも行列が出来る。だが、値段は安くない。例えばニューヨークなどの「一風堂」でチャーシュー増量の「シロマルチャーシュー」を頼めば17ドルで、それにニタマゴ(2ドル)やタカナ(3ドル)をつければ22ドル。そこに9%近い税金と15%程度のチップを払えば27ドルにはなる。1ドル140円では3800円。ラーメン一杯4000円、というのが相場なのだ。

ところが日本の一風堂では「白丸元味ラーメン」が820円で、煮卵、のり、チャーシュー増量の「特製白丸」でも税込で1180円。1ドル140円で換算すれば8.4ドル程度と、アメリカ人から見れば3分の1の値段だ。しかも日本には美味しいラーメンの選択肢が他にも無数にある。

「ユニクロ」だって原材料高騰で米国でも価格が上がっており、出始めた秋物セーターは50ドル、光沢のあるダウンジャケットなら100ドル前後と、以前のようなお得感は薄れてしまった。

でも、日本では値上げしたとはいえ、同じセーターが税込で4000円、ダウンジャケットが9000円以下で買える。1ドル140円の為替レートで更に免税で買い物すれば、日本での買い物は米国よりも4割引から半額程度になる感覚だ。

更に日本のホテルも安い。インバウンド需要を見込んで供給が増えた所に、新型コロナで訪日観光客が3200万人近く(2019年)から25万人以下(2021年)と「100分の1」に激減したため、供給過剰となって価格が低く抑えられている。観光地の交通至便で清潔で快適なホテルに8000円くらいで泊まれたりする。1ドル140円なら60ドル程度。米国では劣悪なモーテルにも泊まれないような値段なのに、日本では無料のアメニティーまで色々ついてくる。

水際対策緩和に伴い、この9月7からは1日あたりの入国者が2万から5万人に引き上げられ、入国前の新型ウィルス陰性証明書も、3回のワクチン接種証明があれば免除されることになった。さらに10月からは入国制限の撤廃、個人旅行の解禁も検討されている。

最近の訪日客数は1ヶ月で17万人近く(8月)に回復してきている。今ドルを持って日本にやってくる外国人観光客にはなんでも安くて、「大人買い」したくなること請け合いだ。最近的访日游客数1个月恢复到近17万人(8月)。

中国人観光客不在でインバウンド回復は効果半減か

本来ならこの為替を最も享受していたのは、中国からの観光客だったろう。中国は元を米ドルとほぼ連動させているから、今の円安・元高ならますます「爆買い」に火がついていたはずだ。

なにせ2019年のピークには中国人観光客だけで960万人と、1000万人近くの人が日本に来ていた。しかも「観光白書」によれば、2019年に外国人観光客が日本で消費した4兆8000億円以上のうち、中国が37%、台湾が12%、香港が7%と、中華圏からの経済貢献が5割を超えて圧倒的だった。

だが今の中国は「ゼロ・コロナ」対策のもと、2500万人が住む上海まで都市封鎖されたり、厳しい出国制限が発動されて「鎖国」状態になっている。日本の水際対策が緩和されても、観光客がすぐに戻るような状況ではない。「1000万人」中国人観光客の蒸発は目に見える現象としてもはっきり現れ、銀座の歩行者天国や京都の哲学の道で中国語を耳にする機会が激減し、「マツキヨ」の行列がなくなって久しい。

日本の入国制限が徐々に緩和される中で、本来であればピーク約5兆円のインバウンド収入の回復も期待されるところだが、一番支出の大きい中国・香港からの観光客が戻ってこないとすると、効果も半減しそうだ。コロナ前から売り上げの2割が減ったままの日本のデパートや、6割も観光収入が減ったままの沖縄などにとっては、まだ試練が続きそうだ。

思い起こせば、コロナ前のインバウンドの伸びは目覚ましかった。2012年に840万人だった訪日観光客数が2019年には上記の通り3200万人と4倍近くになり、日本政府も「2030年に6000万人、15兆円のインバウンド効果」を目標に掲げるなど、掛け声が大きかった。日本人による国内旅行の消費額が20兆円強だから、大きな積み増しになる。

今でもこの目標は据え置きだ。だがこれを本気で実現しようと思うなら、中国からの観光客が戻ってくることが前提になるだろう。

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