サイレント」、放送記録を連続更新! 日本の恋愛ドラマの良作は、なぜいつも冬に登場するのだろう。

放送中のドラマ『silent』(フジテレビ系)が、多くの人の心を捉えている。現在3話まで放送されてきたが、回を重ねるごとに視聴率は上昇、“見逃し配信”を視聴できるTVerでは放送後1週間の再生数が歴代最高記録を塗り替え続けるなど、雪だるま式にファンを増やしている。

『silent』は、声や音楽で繋がり愛を育んできた青羽紬(川口春奈)と佐倉想(目黒蓮)が、“若年発症型両側性感音難聴”をきっかけにすれ違い、音のない世界で出会い直すというラブストーリーだ。紬を大切に想うからこそ姿を消すことを選んだ想。そんな事情を知らず、どうしてももう一度会って話がしたかった紬。2人の間に生まれた愛しい感情と厳しい現実。そんな切なさが募っていく物語にどんどん引き込まれていくのだ。

振り返ってみれば、近年大きな話題となった切ない恋愛ドラマは、10月スタートの秋から冬にかけたドラマが多かったように思う。若年性アルツハイマーを軸に10年にわたる純愛物語が紡がれた戸田恵梨香×ムロツヨシによる『大恋愛~僕を忘れる君と』(TBS系)、連続殺人事件と並行して絶対的な愛情が描かれた吉高由里子×松下洸平×井浦新の『最愛』(TBS系)、盲学校に通う勝ち気な女のコと心優しきヤンキーがピュアな想いを交わしていった杉咲花×杉野遥亮の『恋です!ヤンキー君と白杖ガール』(日本テレビ系)など、今も思い出すだけで涙腺が緩んだ名シーンが蘇ってくる。

一方で、ドジっ子看護師が超ドSドクターを攻略すべく奮闘した上白石萌音×佐藤健の『恋はつづくよどこまでも』(TBS系)や、バリキャリ女子なヒロインと癒やし系おじさん家政夫という組み合わせが新鮮だった多部未華子×大森南朋の『私の家政夫ナギサさん』(TBS系)など新春から夏にかけてのドラマは、視聴者の胸をときめかせ思わず笑顔になってしまう作品が多いように感じる。もちろんすべてがそうとは言い切れない。しかし、春夏には活動的な季節に合わせてエネルギッシュでキラキラとした恋愛ドラマが、日が暮れるのが早いせいかもの寂しい気分になりやすい秋冬にはじっくりと考えさせられる余韻を含む恋愛ドラマが似合うのではないだろうか。

もしかしたら『silent』がこれほどの人気を集めたのも、今の季節感との相性の良さにあるかもしれない。初回、『silent』はチラつく雪の描写からスタートする。秋冬は、どこか“降り積もる”イメージが強い。秋は“落葉”、冬は“積雪”、本作ではさながら“言葉”が降り積もる。「おはよ」「おはよ」「雪だね」「雪だね」「積もるかな?」「積もんないでしょ」「積もるな、これ絶対に積もるやつだ」と出会うなり、途切れることのない会話を始める高校時代の紬と想。そこで交わされる一つひとつはすぐに消えてしまうような他愛もない言葉たち。だが、そんなささやかな会話が積み重ねられて、2人の関係性が築かれていったことが伺える。気づけば街を染めるほど積もっていく雪のように、毎日紡がれた言葉で、何度も聞き返された音楽で、紬と想の間に埋め尽くされていった。そう、それは「うるさい」ほどに。

だが、冬の寒さはこの世界の残酷さを象徴するものでもある。降り積もる雪は、美しくも冷たく厳しい。聴力を失った想が何も伝えずに紬のもとから姿を消して8年。やっとの思いで再会した2人の間には、あの愛しい言葉たちは降り積もらない。とりとめのない会話を楽しみ、愛しい関係を構築していったときに放たれた「うるさい」の言葉が、もはや関係継続は不可能だという拒絶の手話となって返ってくる。そして、その手話の「うるさい」の意味さえも紬には届かないのも悲しい。

凍ってしまった氷のように頑なになった想の心。対して、冬場に差し込んだ陽の光のごとく温かな湊斗の優しさに紬が癒やされたのも納得だ。食べられなくなってしまったときに唯一受け入れられたコンポタ(コーンポタージュ)、心を落ち着かせたいときに検索するかわいい動物たちの動画……。じんわりとふんわりと湊斗と交わした言葉たちもまた紬にとっては大切な積み重ねられたものだった。

「今、好きなのは恋人の湊斗。想のことはもう好きじゃない」。そう言葉にするものの、紬の表情や行動は湊斗を落ち着かせなくする。湊斗と同棲するための部屋探しはなかなか進まないにもかかわらず、想と会話をしたいと手話教室へすぐに向かい、「会って話したい」とアグレッシブにLINEを返す。そして、取り付けた約束の日には新しいスカートで向かうのだ。8年ぶりに会話ができる会いたかった人と、約3年一緒に過ごしてきた人とでは熱量が変わるのは当然かもしれない。だが、「それ新しいね、スカート」と、小さな変化に気づくほど湊斗の細かな視線が、今も紬に対して片想いをしているかのようで胸が痛むのだ。

想の別れたい理由は「好きな人ができた」ではなく「好きな人がいる」だった。その好きな人は新しく出会った誰かではなく、紬だったこと。紬が想を忘れようとした結果、好きな音楽のことまで忘れてしまっていたこと。些細なエピソードに見えて、実は物語を大きく動かす心情描写になっていたりする。〈言葉はまるで雪の結晶〉とは、Official髭男dismが歌う本作の主題歌「Subtitle」の一節だ。まさにこのドラマは雪の結晶を観察するかのように、一つひとつの言葉を、そしてやりとりを考察したくなる作品だ。まだ物語は始まったばかり。秋の夜長に、この繊細で洗練されたラブストーリーをじっくりと味わっていきたい。

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