始まった人気シリーズ『るろうに剣心』の第4作目『るろうに剣心 最終章 The Final』が、テレビで初放送されるのだ。『The Final』というだけあって、これは“すべて”に終止符を打つ物語。主人公・剣心(佐藤健)が真の意味で自身の過去と対峙することになる。
本シリーズは、血も涙もない「人斬り抜刀斎」として幕末に恐れられていた剣心が、その忌まわしき過去とつねに対峙しながら明治という新時代を生きていくさまを描いたものだ。いくら本人が「不殺(ころさず)の誓い」を立てて変わったつもりでいても、これをどうしても認めない者たちがいる。それが、シリーズ第1作目の鵜堂刃衛(吉川晃司)であり、第2作目『京都大火編』ならびに第3作目『伝説の最期編』の志々雄真実(藤原竜也)や四乃森蒼紫(伊勢谷友介)らである。平穏な日常など得られたところでつかの間の話。剣心は永遠に重い十字架を背負って生きていかなければならぬ者なのだ。
本作でそんな彼の前に立ちはだかるのが、先にその名を記した男・雪代縁である。縁はほかの者たちに引けを取らぬ冷酷非道さを備えている男だ。しかしながら、彼が剣心に対して抱く怨嗟の念には正当性がある。かつて剣心が、自身の最愛の姉・巴(有村架純)を目の前で斬殺したからだ。変わりゆく時代や社会からひどい仕打ちを受けた志々雄や蒼紫も大きな悲しみを背負う男たちだが、縁の中にうごめく悲しみや怒りはまったく別。剣心からすれば志々雄や蒼紫が向けてくる念は“いい迷惑”であり“とばっちり”にも思えるが、縁に関しては実際に彼から姉を奪ったのだ。剣心の存在が志々雄や蒼紫のような存在を生んだことは事実だが、負の感情に満たされた縁の場合は、完全に剣心がその原因となっている。だから剣心は、真の意味で自身の過去と対峙しなければならないのである。
縁とは、もう絶対に戻ってこない姉の幻影に囚われている男だ。“目的のためなら手段は選ばない”というのは悪役の典型的な性格だが、この縁も同じ。彼は剣心への怒りで姉の幻影しか見えていないようで、無関係な人々がどうなろうとも知ったことではない。というより、彼の目的は剣心の命のみならず、憎き剣心が大切な姉を斬り捨ててまでその誕生に貢献した、「明治の社会」のすべてを壊すこと。
私たち観客/視聴者は令和の時代を生きているが、深く大きな個人的な憎しみが社会全体を揺るがすことを知った。剣心と縁の関係を、純粋なエンターテインメントとして手放しで楽しむことはもう少し難しいのではないだろうか。曇った眼で縁がしようとしていることは、彼自身と同じような人々を新たに生み出すことに確実に繋がる。マンガ原作のフィクショナルな活劇だが、本作と日本のいまの社会とを照らし合わせてみることで見えてくるものもあるだろう。果たして縁の姿は何を物語るだろうか。
本作では、“すべてのはじまり=剣心の過去”を描く第5作『The Beginning』のヒロインである巴が初めて本格登場する。主演の佐藤健と縁役の新田真剣佑による“心・技・体”の壮絶なぶつかり合いももちろん大きな見どころだが、有村架純が演じる巴の儚い姿も重要。出番は多くはないが、たびたび映し出される彼女の表情が、そしてその声が、縁の悲しみと怒りを完全なものとしている。
『伝説の最期編』まで剣心の中にあった「不殺の誓い」に対する迷いは、本作にはもうない。であれば、この作品における剣心の苦悩とはなんなのか。本当の最終作である『The Beginning』に向けて、彼の内面に迫ってほしい。それができるのが、この『The Final』なのである。